玉緒の日記

日々是流々

近所の寿司屋に思い切って入ってみた

近所に寿司屋がある。いつも利用しているクリーニング屋の隣だ。昔からやっているお店らしく見た目は相当な老舗。そして、外からチラっと伺う感じではカウンターが数席あるぐらいのちょっと敷居が高そうなところである。ここに越してきて、もう二年も経つが、そういうところもあって入ったことが無かった。

 

ただ、一つ気になっていたのは「にぎり定食 750円」というメニュー。しかも、そばかうどん付きらしい。紙に書かれたそのチラシが窓に貼ってあるのだが、数年前からずっと貼られているのか、相当経年劣化した様子だ。ちょっとそこには惹かれながらも、メニューの古さがちょっと怪しいし、敷居は高そうだし、入れずにいた。おまけに、朝出勤途中に見かける大将がけっこうな強面で、無作法なことをすると一喝されそうな雰囲気なのである。そんなこともあって、二年間訪れることが無かった。

 

しかし、今日、お昼前にクリーニング屋に寄って、店を出たところ急にお店に入ってみる決意が固まった。お昼をどこで済ますか決めきれないでいたし、なんだか今日なら「いっちょ入ってみるか」という妙な勢いがあったのだ。

 

ドアを開けて中に入ると、意外にも大勢の客がいた。中には小さな座席があって6、7人ほどのマダムたちがそばをすすっている。そして、二人がけのテーブルが三つほどあって、そのうちの二つは埋まっていた。とりあえず、大将の奥さんらしき人にお目当てのにぎり定食(そば)を注文し、テーブルに腰をかける。

 

店内を見回すと大将の前には美味そうなネタが並んでいる。ブリの大きなネタが一際存在感を放っていた。他のネタのメニューも天井から下げられている。「うに 800円」「赤だし 300円」「刺身盛り合わせ 1000円」などなど。にぎり盛り合わせなるものもあって、今度来た時はこれもいいかもなと思うほどに、既にお店が気に入ってしまっている。実際、よくあることだがメニューを食べずしてもう既にその店が気に入ってしまっていることが多々ある。こういうときの直感はまず外れないもので、今回も当たりだった。まずはそばが運ばれてきて、熱々のありがたいダシをすすっているところに肝心のにぎりがやってきた。7貫あり、たこ、たい、ぶり、あなご、えび、まぐろなどである(あとの一貫はこういうところに不慣れなものでわからなかった…)。「巻き寿司が多かったりするのだろう」と考えていたが、意外にも豪華な内容で心は躍る。「ほら、やっぱりこの店は当たりだ」などと、二年間も足を踏み入れることができなかったくせに、勝手を言ってしまうほどだから呆れる。

 

味は申し分なし。ネタは芯の通った歯ごたえで新鮮な風味、酢の加減もちょうどよし。おまけにさびの量も僕好みときた。あっという間に平らげて、上機嫌で会計を済ます。馴染みの客っぽい人たちは、食後はNHKのど自慢を見ながらのんびりすごしている様子。帰り際、満点の鐘が鳴った登場者に大将「ほんまかいなぁ」と漏らした。「ご馳走様でした」と大将に頭を下げると、「ありがとう」と強面を崩して微笑んでくれた。大将に「また来るで」と心でつぶやいて、店を後にした。