玉緒の日記

日々是流々

昔ながらの食堂でかす汁を食べてきた

朝のんびり起床し映画を一本観て、それから朝食兼昼飯を食べに行った。どの店にするか迷ったが、最近は揚げ物ばかり食べていたこともあり、ここは一つやさしい家庭的な味が欲しいと腹が言うので、近所の昔からやっている風の食堂に行くことにした。

 

店の前に来ると、張り紙がある「かす汁 さくらの咲くころまでやっています」そうだ、これだ。やっぱりここにして正解と勢いをつけて、乗り込む。店に入ると客が二人。どちらも年配の女性で、馴染みの客のようにくつろぎながら店主と話しこんでいる。まずは、店の入り口でおかずを一品選ぶ。鮭の塩焼き、鯖の味噌煮、コロッケ、煮物…いろいろあるが、ここは肉じゃがに決定。とにかく野菜が食べたかった。そして、店主である齢80前ほどのおばちゃんに「かす汁一つ、あとご飯大盛りで」と注文を済ませる。

 

席に着くと向かいでかす汁をすすっているおばちゃんが、「お茶をどうぞ」と茶碗にお茶を注いでくれる。ありがたく一杯ちょうだいし、寒さで凍えた体を温める。番茶だ。やかんから注いでもらったお茶が体に染みる。ひとまず落ち着いたところで、店の中を見回す。店の中は、昭和時代にでもタイムスリップしたのかと思うほどに古めかしい。木造家屋の壁に貼ってあるメニューは筆の手書きで、テーブルは家にあるような大きな物が二つあるだけ。どちらも向かい合って座るタイプのものだ。

 

お待ちかねのかす汁が登場。待ってましたとばかりに一口すする。美味い、あつあつで美味い。酒の味は濃い目で、具は大根、にんじん、ごぼう、こんにゃくなど盛りだくさん。冬と言えば、この味に限る。熱い汁をすすりながら、ときおり肉じゃがを食べ、ご飯をかきこむ。付け添えのたくあんを噛むポリポリという音が顎に心地よい満足感を与えてくれる。遅いご飯なだけに腹が減っていて一気に食べ進めてしまった。しばらくして、また店主と客が会話を始めた。「うちのかす汁は徳島の地酒からとれる酒かすを使ってるんですよ」と店主。「これが美味しいと酒かすを買うて帰る人もおるんですわ、普通は売っては無いんですけどね」。なるほど、確かにそう言われてみるとより美味しく感じてくる。単純なものである。でも、美味い。「能書きはいい」と誰かが言ってたけれど、能書きを抜きにしてもここのかす汁は美味いと思う。

 

店主と客はネコの話しをし始めた。どうやらこの店の中にはネコがいるらしいのだが、姿が見えない。「ネコはよく知ってまして、あそこのテレビの後ろが一番あたたいもんで、隠れてるんですわ」とのこと。天井近くの棚には大きなテレビが鎮座している。どうやらあそこの後ろにネコがいるらしい。なおも続くネコの会話に聞き耳を立てながらかす汁をすする。あっという間に、大きな器にたっぷりと入れられた汁を全て飲んでしまい、ご馳走様。

 

食後に店主と話し込んでいると、コーヒーを入れてもらった。「最近はチューハイゆうのが売ってますやろ、あれを買うて飲んでみたけど甘くて最後までよう飲みませんでしたわ」と最近のお酒がわからないと言うおばちゃん。酒を飲むのも最近はファッションの一つですから味はなんでもいいんです。と、訳のわからない理屈を言ってさらにおばちゃんを困惑させてしまった。

 

外に出ると、風が痛いほどに冷たい。「また、来るか」とつぶやいて店を後にする。